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井上あきら習作篇 その三十六 当季雑詠
「七夕」
まつ白の琺瑯ポット青い薔薇
地窓より入るゝ西風切る西日
川風や西日の呉れし置土産
鱧づくし骨切る技も小気味よき
七夕やいたいけな子の願い事
七夕や園児の担ぐ笹飾り
へうへうとのびちぢみせんくらげかな
声がして徐に見ゆ夏帽子
母の陰に手を携へし夏帽子
足元にとりこむ歩道葦簀かな
<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編
「第三版俳句歳時記 夏の部・秋の部」によっています】
今回の主題は「七夕」(たなばた)
七月二日は雑節の半夏生(はんげしやう)夏至から十一日目
梅雨が明け田植えの終期とされる
昨日 七月七日は二十四節季の小暑(せうしょ)暑気に入る
五節句のひとつ七夕(たなばた)でもある
歳時記では秋の季語になります
旧暦七月七日は 今年(2010年)の八月十六日
このころなら 立秋も過ぎなので季感はわかる が
これが現代俳句の季語の泣き所のひとつ
これから夏の盛りに入るのに「秋」の季語といわれて戸惑う
そこで 季感だけでなく本意を学ぶため
広辞苑にも助けを求めよう
七夕は中国伝来の乞功奠(きこうでん)の風習と
日本の神を待つ「たなばたつめ」の信仰とが習合したもの
奈良時代からあり江戸時代に民間に広まった
「たなばた」を漢字で表記すると「棚機」(横板のついた織機)
書道や裁縫の上達を祈る
天の川の両岸にある牽牛星(彦星)と織女星(織姫)とが年に一度
相会する旧暦七月七日の夜「星を祭る」年中行事
七夕祭 銀河祭 星祭 天の川 星今宵・・・
小惑星探査機「はやぶさ」が
6月13日地球に帰還(大気圏突入で燃え尽きたが)したような現代
「七夕」の季感は別にして 夜空の星に思いを馳せる
そして 星に祈る日ということでいかがでしょう・・・
「薔薇」(ばら)が夏の季語
真っ白の琺瑯製の湯沸し瓶に青い薔薇が活けてある静物画
<青い薔薇>はサントリ−がバイオテクノロジ−で
世界で初めて作った夢のバラ(2004年発表)
バラの品種改良の歴史は800年もあるという が
青いバラはできなかった
<青いバラ>は英語で不可能の代名詞になっていた
「西日」(にしび)が夏の季語 二句
西日は暑い一日に止めを刺す
一 その西日は入れず 西風だけを入れる工夫が地窓(ぢまど)
床すれすれの低い位置に細長く開ける窓
殊に関西の家は<夏を旨とすべし>兼好法師の教え
を守らないと涼しく過せない
二 そんな西日にも律儀なところがあって
沈んだ後に 川風(大阪では西風)という涼しい置き土産を呉れる
「鱧」(はも)が夏の季語
梅雨の水をたっぷり飲んだ鱧は今が旬
関西では淡路島の沼島(ぬしま)の鱧が珍重される
鱧は美味いが骨切りが厄介
それはプロの料理人にお任せ
骨切りの絶妙の技<小気味よい>音を楽しんで待つ贅沢
淡路島特産の玉ネギとの出会いもの
暑いときに熱い鱧すき鍋が乙
祇園祭りや天神祭りに欠かせないのが鱧
こちらは梅肉か酢味噌で食す 涼し気な落とし・・・
鱧の照り焼きや鱧の押し寿司も忘れずに
「七夕」(たなばた)が秋の季語 二句
いたいけ(幼気)な子の純粋な祈りの気持ちを
裏切ってはならない
俳人はひとりやきもきしている
願い事を一杯書いた五色の短冊で撓む力作
この日 園児らは自分の背丈より大きな笹飾りを
大事そうに担いで帰る
「くらげ」(海月)が夏の季語
<へうへう>は飄々の旧かな表記
すべて平がなで表記し 海月らしさを表した句
「夏帽子」(なつぼうし)が夏の季語 夏帽 二句
夏の暑さを防ぐためにかぶる帽子の総称
夏に用いる麦わら・パナマなどの帽子
殊に幼い子の夏帽子は可愛いもの
<一> 声が先に着いて 徐に(おもむろに)
夏帽子が見えてくる 子どもとは表現されていないが
わずかの時間差に 可愛い子(孫)を待つ人の期待感が現れている
<二> こちらも 子は具体的に表現されていないが
母の影の側に守られた子の夏帽子が可愛い
「葦簀」(よしず)が夏の季語
葦(よし)を編んで作った簀(ず)
日除けなどに用いる
建物に斜めに立てかけるとき
ちゃっかり 歩道の一部を取り込むズルをする
庶民のささやかな道路交通法違反?
(234句目)
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暮らし方研究会
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