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井上あきら習作篇 その三十五 当季雑詠


「茅の輪」
上顎を医師に誉らる梅雨晴間


梅雨雲や磨耗したりし石畳


声低く語る真実額の花


狭き鐔乙女の似合ふ夏帽子


一年と茅の輪の真中くぐりけり


黴臭きビルの玄関モボとモガ




<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編 「第三版俳句歳時記 夏の部」によっています】

今回の主題は「茅の輪」(ちのわ)
昨日 六月二十一日は二十四節季の夏至
六月三十日は夏越の祓(なごしのはらへ)
大きな輪が 神社の門に据えられる
くぐり方にも 地域毎にいろんな約束事があるとか

「梅雨晴」(つゆばれ)が夏の季語 梅雨晴間
上顎など誉める人ってどんな人だろうか
私がいまかかっている歯科医師で口腔外科医が
義歯の型取りをしながら「いい上顎です」とつぶやいた
憂鬱な歯科医院に一条の光が差し込んだ 梅雨の晴れ間

「梅雨雲」(つゆぐも)が夏の季語
梅雨雲と石畳の間に梅雨という空間(間)がある
その石畳が磨耗するには長い年月を要す
角がとれ つるつるになった石畳に
やがて雨が落ちてきて濡れて光ることだろう
このような句の鑑賞には <や>という切れを
見逃せない<梅雨雲や>と<磨耗したりし石畳>とは
はっきりと切れて そこに間がある
と読めれば読み手としては有段者

「額の花」(がくのはな)が夏の季語 額紫陽花(がくあぢさゐ)
前回詳しく説明したので省略
この句には<や>の切れ字はないが<声低く語る真実>で切れる
「本当に言いたいことは 声低く語れ」はトルストイの言葉だとか
読売新聞の橋本五郎さんの文章を読んでいて心に残った
ふと見ると 紫陽花の地味な顆粒状の真花が
萼の陰から低い声で何かを語っている

「夏帽子」(なつぼうし)が夏の季語
近頃 オシャレな夏帽子は鐔(つば)が狭い
迷い込んだJR大阪の高架下のファッション街で
そんな夏帽子をたくさんディスプレイした店をみた
街で見かける乙女の夏帽子の源流
オシャレな乙女の涌くところ

「茅の輪」(ちのわ)が夏の季語 茅の輪くぐり
六月末日 ちょうど一年の真ん中 夏越の祓
半年の間にたまった罪や穢れを祓い清める行事
神社の門に飾りつけられる
茅(ちがや)で作った人が通れる大きな輪
一年の真ん中と茅の輪の真ん中を通った
先輩の建築家 松村賢治著「和のくらし・旧暦入門」(洋泉社MOOK)
の教え通り 照れずに三度くぐる
最初は くぐったら左へ進んで元の位置に戻る
次に くぐったら右へ進んで戻り
最後は 正面(か左)へ進む
松村賢治さんは(社)南太平洋協会(ASPA)の理事長
1974年にヨットで世界周航
アウトドアライフの達人 私の陸・海の遊びと旧暦の師匠

「黴」(かび)が夏の季語 青黴 麹黴 黴の宿 黴の香
ことに梅雨期に黴はつきもの
モボ(昭和初期の造語)モダンボ−イの略
モガはモダンガ−ルの略
ハイカラ(hight collar)丈の高い襟の意も同じころ
西洋風を気どったり 流行を追ったりすること(広辞苑)
20世紀初頭の世界的なモダニズムの潮流に
開国したての日本も席巻された
大正 昭和初期には一般化
猫も杓子もモボ・モガになったそうな
(この表現自体がすでに黴臭い)
ピカピカも一世紀も経つと古びてしまう
名立たるモダニズムのビルも
玄関口で黴臭い息を吐いている
俳句は新鮮な心が取柄
(224句目)


井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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