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井上あきら習作篇 その二十八 当季雑詠


「修二会」
一輌のふくらむゑがほ遠足子


雛飾仕舞忘るに嫁しにけり


練行衆のたうちまはる修二会かな


まづ一献大吟醸を佐保姫に


√2を開いてゐたり春の宵


王仁の歌碑和と漢・朝に咲く桜


サクラサク名もなき幼稚園なれど




<字句補足説明>
「遠足」(ゑんそく)が春の季語 遠足子 
遠足は四月から五月が最適なので 春の季語とされた
この句
遠足にゆく子らの乗った一輌(バスか電車)が笑顔で
はちきれそうになっているところ
遠足子(ゑんそくし)は遠足にゆく子どもたちのこと
遠足の句をいくつか
<遠足の列大丸の中とうる>田川飛旅子(たがわひりょし)
<遠足子お大師さまの足を見て>辻 桃子
<遠足といふ一塊の砂埃>後藤比奈夫
などなかなか楽しげ

「雛飾」(ひなかざり)が春の季語
雛飾りを仕舞忘れると婚期を逸するという言い伝えがあるが 
良縁を得て娘が嫁いだ雛飾りを意図的に仕舞忘れて
言い伝えが正しいことを半ば期待
半ば安堵の男親のビミョウな心境

「修二会」(しゅにえ)が春の季語 
陰暦の二月初め(いまは三月)に国家の隆昌を祈る法会 
ことに三月一日から十四日間修される東大寺二月堂のお水取りが有名
「お水取り」とは何をしているのか 意外と知られていない
以下の要約は2008年3月に関経連で講演 経済人に掲載された
奈良国立博物館教育長の西山 厚さんの講演要旨からの引用 
この伝統行事は奈良時代 天平勝宝四年(752年)に
東大寺の実忠和尚(じつちゅうかしょう)によって始められた
「悔過」と「祈願」の法会
「これまで1259年間一度の中断もなく」続けられてきた「不退の行法」
練行衆(れんぎやうしゅう)と呼ばれる11人の僧は 十四日間毎日
二月堂にこもって「観音悔過」(かんのんけか)をする
「悔過」とは仏にお詫びすること
奈良時代には東大寺は国立の寺院 東大寺僧は国家公務員
つまり国民を代表して本尊の十一面観音にお詫びし
そして 生あるものすべてが幸せになれるよう「祈願」をしている
世の中が平和で 穀物がよく実り みんなが幸せになるよう祈る
その前に徹底した「悔過」をする
「祈願」することは「天下安穏」「五穀豊穣」「万民豊楽」
お水取りといえば大きな籠松明ばかりが写真で紹介されるが
それは 二月堂の下にある参籠宿所から
練行衆が登廊(のぼりろう)を登って二月堂に入る
足元を照らす役目の一端にすぎない
「お水取り」と呼ばれる所以
三月十二日の深夜 二月堂の脇にある若狭井から
水(香水)を汲み 観音様に供える
その井戸のある場所は閼伽井屋(あかいや)と呼ばれている
「のたうちまはる行」については外からは伺い知れないが 
「五体投地」や兜卒天(とそつてん)に張り合う「走り」など
堂が揺れんばかりに全身全霊をかけて行われている様子
説明が長くなりすぎるので(以下略)
「六時の行法」や「不退の行法」などの詳細については
機会があればまた・・・
一方 薬師寺の「修二会」は 通称「花会式」声明が荘厳
こちらは本尊 薬師三尊に「悔過」と「祈願」をする
修二会が終わると関西には本格的な春が訪れる

「佐保姫」(さほひめ)が春の季語 
佐保山を神格化した春の象徴 春の野山の造化を司る
その佐保姫にとっておきの大吟醸を「まづ一献」と差し上げるところ
因みに 対をなす秋の象徴は龍田姫
紅葉で有名な竜田山を神格化
いづれも春(秋)に移り変わってゆく様子を姫の成長に仮託
命名の理屈は陰陽五行説
平城京の東(つまり春)に佐保山→佐保姫
平城京の西(つまり秋)に龍田山→龍田姫
現代は王子ばかりで発想も皮相
藤原定家の和歌
<佐保姫の糸染め掛くる青柳を吹きな乱りそ春の山風>
正岡子規の句
<佐保姫のもてなしあつし独り旅>
理屈っぽい子規先生にしてはロマンチック
これも佐保姫の功徳・・・

「春の宵」が春の季語  春宵(しゅんせう)
「春宵一刻値千金」の詩句から「千金の夜」という古い季題もあったとか
夕暮れのあと 夜がまだ更けないころ
明るく艶めいた感じ 感傷を誘う
あまり開く意味もない「ル−ト2」を弄んでいるアンニュイ
「ル−ト2」よりも漢詩のおさらいのほうがよかろう
以下の説明についてはネット上の
<蘇軾 春夜 碇豊長の詩詞:漢詩>から引用しています
原典は北宋の文人 蘇東坡の「春夜」という七言絶句
春宵一刻値千金  春の夜はわづかな時間でも非常に値打ちがある
花有芻′似L陰  花には清らかな香りがあり 月は陰ることがある
歌管樓臺聲細細  歌声と楽器の音色が高殿から微かに聞こえている
鞦遷院落夜沈沈  ぶらんこのある中庭に 夜は静かに更けてゆく
「院」は四合院(しごういん)のこと
中国の伝統的な住居形態 防御を固めた中庭式のタウンハウス
鞦遷 ぶらんこは革でつくられていたので革ヘンになっている
しうせんの遷はシンニュウを革ヘンが正(フォントが見つからずアテ)
   
「桜」が春の季語
王仁(わに)は古代の朝鮮王朝 百済(くだら)の学者
漢字や儒教を日本に伝えた恩人
大阪の小学生だった私は 「王仁博士」と教えられた
今年二月の末に その功績を顕彰して
生野区にある御幸森(みゆきのもり)天神宮に
王仁が詠んだとされる和歌を刻んだ歌碑が建立
ひらがな(和)万葉仮名(漢)ハングル(朝)で
<難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花>
和歌で花というと「桜」
三つの言葉に友好の桜が咲いているところ

「サクラサク」が春の季語 
べつに咲かなくても 桜だけで季語
「サクラサク」は電文で「合格」を伝える略文の名作
都会の幼稚園は ビルの谷間に辛うじて息づいている
絶滅危惧種 なくなっては困る貴重な希望の存在
まして 少しでも費用が少なくてすむ公立の幼稚園は
名もなき存在ながらも 合格したら冒頭の電文を打ちたい気分
いまどきの携帯電話では 絵文字が主流かもしれない
因みに不合格は ご存知のように「サクラチル」だった
しかし ほとんど打電されることはなかった
「サクラサク」が届かなければ察することができた
この「サクラサク」を題名にする歌が話題を呼んでいる
ネスレのKitKatのTVCMのタイアップ曲
女優の北乃きい(18)が歌手としてシングルデビュ−
俳句の電文体といえば 昨年11月末に亡くなった
昭和を代表する俳人 川崎展宏(1927〜2009)に
<「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク>
戦艦 大和は1945年4月7日撃沈された
<ヨモツヒラサカ>は漢字にすると<黄泉平坂>
あの世とこの世というような意味
(180句目)


井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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