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井上あきら習作篇 その二十七 当季雑詠


「春雨」
石膏像の竝ぶ画室や冴返る


旧正や異国と思ふ中華街


手ひねりに山茱萸の花挿しにけり


梅が香や武庫の離宮でありしころ


春雨に蛇の目を傾ぐ小路かな




<字句補足説明>
「冴返る」(さへかへる)が春の季語 
凍返る 寒戻る
暖かくなりかけて寒が戻ること
心象としては すこしゆるみかけた気持ちが再び引きしまる感じ
石膏像がずらりと竝ぶ(並ぶ)デッサン室はいくつになっても緊張する空間
みるからに威厳がありそうなギリシャの偉人の胸像
石膏の白一色でできているので イメ−ジが一層膨らむ
木炭紙に木炭やコンテで描く 乾いた音だけが響く
その緊張感を「冴返る」という季語に重ねた

「旧正」(きうしゃう)が春の季語 
旧正月
二月十四日 陰暦の正月元旦にあたる
中国では春節祭として盛大に祝う
神戸の南京町 横浜 長崎など早く開港した港町には中華街がいまも健在
普段は異国情緒はあっても 異国というほどの意識はない
ところが「春節祭」には母国の思いが吹き出して異国に一変
爆竹 紅いランタン 緑色の獅子舞 銅鑼の音・・・

「山茱萸の花」(さんしゅゆのはな)が春の季語 
春黄金花(はるおうごんばな)
中国・朝鮮半島が原産 早春に黄色の小さな花が球状に集まって咲く
春黄金花の名はそれに由来
芭蕉生誕の地伊賀上野の手前 西山に伊州窯という窯を作ったKさん
趣味の窯(といっても本格的)なので 
素人陶工が手捻りの作品を作ったり焼いたりさせて戴く 
その庭に山茱萸の花が咲いている
主のなかなかシブイ趣味

「梅」(うめ)が春の季語 
梅が香
清々しい梅の香によって 現実にはない過去
須磨の離宮が前身の武庫の離宮(むこのりきゅう)
と呼ばれていた頃を思い浮かべているところ
武庫の離宮の命名は 孝徳天皇 武庫川上流の有馬温泉行幸の故事による
旧建物は大谷光瑞別邸(木造の和風建築)を宮内省が買収
1908年(明治41年)〜1914年(大正3年)完成
1945年(昭和20年)に焼失
1967年(昭和42年)皇太子(現天皇)御成婚で神戸市に用地下賜
隣接する岡崎財閥の岡崎邸建物と敷地を市が買収(建物は阪神大震災で倒壊)
植物園一体(24ha)須磨離宮公園として現在に至る

「春雨」が春の季語  
春の雨 春霖(しゅんりん)
春雨は古くから静かで艶(えん)なもの
陰暦正月から二月初めに降るのを「春の雨」二月末から三月に降るのを「春雨」
小路(こうぢ)は京都なら先斗町(ぽんとちゃう)大阪なら法善寺横丁
蛇の目傘なら申し分なし 互いに傘を少し傾げ(かしげ)てすれ違うのが粋
(173句目)


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暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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