茶柱横町 茶柱横町入口へ
 
 
プロフィールを見る
前を見る 次を見る

井上あきら句作篇 その六 当季雑詠


「早春譜」
点滴の一滴しづか氷解く


刀疵負ひし適塾冴返る


薄氷や伶人町の名をとゞむ


うち震ふその如月の望の月


忘るなと匂ひをりけり梅の花


菜の花の島に嘉兵衛の生(あ)れにけり




<字句補足説明>
「氷解く」は「こうりとく」で春の季語
氷が解けて春近し という思いと点滴の一滴が重なり 退院間近

「刀疵」は「かたなきず」で刀で斬った疵の痕
「適塾」は幕末の大坂に緒方洪庵が開いた蘭学塾 保存され見学できる
その柱に無数の刀疵が残っている その緊張感「冴返る」が春の季語

「薄氷」は「うすらい」春の季語
春まだ浅いころの薄く張った氷 消えやすく儚い印象
「伶人」は「れいじん」大陸から古代の四天王寺に舞楽を伝えた楽人のこと
彼らが住んだ四天王寺の近くに
「伶人町」「れいじんちょう」という地名が残る

「如月」は「きさらぎ」で春の季語 陰暦二月の異称
草木の更正する生更ぎの意 西行の辞世の歌とも思える
<願はくば花の下にて春死なんその如月の望月の頃>を想起させる
今年2月10日の望月に感動した句

「梅の花」が春の季語 大阪 天満宮に小さいながらも梅林がある 
菅原道真が大宰府へ左遷される際に詠んだ
<東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ>に
律儀にも応えて咲いている梅の花に敬畏を払った句

「菜の花」が春の季語 嘉兵衛については
前回の司馬遼太郎「菜の花忌」(2月12日)に関連して
その菜の花忌の名の由来になった「菜の花の沖」という長編の主人公
高田屋嘉兵衛(1769〜1827)は淡路島の出身
(その淡路島で菜の花が栽培されて特産品だった
菜の花を搾って菜種油を作ったのが現在の阪神間
住吉川や芦屋川の水流を利用して搾油業が栄えた)
海運業で財を成し ゴロ−ニン事件という
当時のロシアとの紛争をたった一人で解決した偉人
ということで 「菜の花の島」は「淡路島」「嘉兵衛」は「高田屋嘉兵衛」

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

第60回
茶柱ツイッタ−句会

第59回
茶柱ツイッタ−句会

第58回
茶柱ツイッタ−句会

バックナンバーINDEX
前を見る 次を見る
| 著作権について | このページのトップへ | 茶柱横町入口へ |