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其の五十三 有備無憂

右利きであるから右ばかり使っている
右ばかり力がつくし器用になるのは仕方ない。
しかし右に何かあったらどうするのか。
リスクを分散する為に右の役割だったものを
二つばかり
左に交代してみようと思った。
小学生の時分のことである。
歯磨きと米研ぎはどうか。
爾来この二つを左の仕事にした。
此れで憂いが少し減った筈である。
しかし、其後、研がずに炊ける米が出回ってしまい、
米研ぎといふ左の仕事が無くなってしまった。

先日、洗濯物を左で干してみようと思い立つ。
洗濯物干しに下がっている洗濯バサミであるが、
左の親指と人差し指で摘んで見たら物凄くやり辛い。
摘んで開いて洗濯物を挟むだけだというのに
三倍も時間がかかる。
此れはやる意味が在りそうだ。

細かい小物干しだから四十個も洗濯バサミが付いている。
朝の忙しい時間帯に全く捗らない。
其内、右が苛々して「貸せ、我に遣らせろ」とばかりに
出しゃばりそうになるが、
ぐっと堪えて左で一つ一つ、挟んでいく。
而して、毎日、
人差し指と親指で洗濯バサミを摘むトレイニングをしている。
甲斐ありて多少は左に力がついてきたことであろう。

それから
ホチキスも左の担当としてみた。
此れも又、資料を整えねばならない慌ただしい時に時間が掛かり、
且つ、力が足りずに一気に押せない所為か
針が中途半端な具合に紙束に刺さって
時間と物資の大いなロスとなり苛々する。

しかし此処で右にやらせたら終いだ。
何時までも左が慣れずに力も付かない。
ということで諦めず腐らず、続けている。

それからまだあるぞ。
エスカレータに乗る時に右足から踏み出してしまう。
これも左足が弱いからである。
気に入らない。
左の力が弱くて関節も硬いので足首が踏ん張れず不安なのだ
と自分で理解している。

此処もまろびそうになりながら我慢して左足から踏み出す。
大縄跳びがあったら此れも左足から入らざるを得ないだろう。
幸い今のところ道で大縄跳びに出くわさないので助かっている。

此の様に日々鍛錬を重ねておけば
躄という時に不便を感じないで済むのである。
そのために今の不便を堪えて闘うべし。

さて、本を読んでいたら
「其奴は頭がイカれていたので
何事も左右対象であることに
ひどく拘泥していた」
という一節があった。

そういうことか。


其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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