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其の五十二 大人の事情

大人になるとなかなか人には誉められないものである。
文句は言われるが誉められない。
正円や正三角形をコンパスで上手に描けたり、
漢字をノートに沢山書いたりしても
当然だが誰にも誉められない。

やっかいないことに、大人は自分から
「この辺で一つ誉めて欲しいのだが」
と言ってはいけないシキタリになっているらしく、
誰にも言い出せないのである。

しかし誉められたい気持ちが
どうにも抑えられないときがやってくる。
電車に乗って家に辿り着くなり家族にそれとなく言ってみる。
それとなく言っても「大人誉め」は日頃、
馴染まない習慣であるから相手は気づきもしない。
気づいてもどう対処していいのやら、であろう。
仕方ないので
「私は今、無性に誉めてほしいのであるから誉めよ」と、
これ以上ないくらい直接的に言ってみる。
しかし、相手も家族とは言え、そんな掟破りがあるものか
自分だって誉められたいが誰も誉めてくれないではないか、
と思っているようで一向に誉めてくれない。
絶対に誉めてなんかやるもんかという気魄さえ感じる。
仕方ない。

ということで
頭を抱えた大人たちが集まって「○○賞」を作った。
大人というのはお金も手間も時間も掛かって
大いに大変なものである。


其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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