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其の五十一 赤パン

赤シャツは外から見えるからして
「赤シャツ」と呼ばれてしまうのである。
赤いパンツは履いていてもなかなか人には知られぬから
赤パンと呼ばれることはまずないだろう。
だが今の私は「赤パン」と呼ばれても
言い返せぬほど赤パンばかり履いている。

一昨年、母が亡くなった。
普段から整理整頓を徹底する性分の人であったが、
それでも遺品整理はそれなりに手間がかかって
親類縁者で分けたり処分したりした。
高価な衣類は寸法の合う者で分け、思い出の品も姉妹で分けた。
どうにもできないものは処分した。
箪笥の引き出しの下着類なども処分した。
その時、包装紙に包まれた新品の赤いパンツが大量に出てきた。
これは縁起ものである。
私が巣鴨地蔵通りで買い求めて母に贈った品である。
赤い下着を贈られると厄除けになり健康長寿に良いのである。

母は私などよりよっぽどお洒落で
お金持ちで服やら宝石やらを持っていた。
なんでも持っているし好みも違うのでプレゼントには
何を贈って良いのかさっぱりわからない。

そこであるときから巣鴨地蔵通りで売っている
赤いパンツを贈ることにした。
干支が入っていたり遠赤外線効果のある糸だったりするが
兎にも角にも赤いパンツである。
母は何時も喜び、笑顔で受け取っては箪笥に仕舞っていた。
しかしどれも一回も履いていなかったのだ。
履いているだろうと思っていた私には想定外である。
ちょっとがっかりである。

妹が処分しようと言う、それも何やら悔しい。
私が贈ったものだと皆知っているので
なんだか早く隠してしまいたい気になる。
「いやいやこれは縁起物。温かいし何よりピンピンの新品。
あら、もったいないじゃあないの」とか言って、
全部自分で引き取ってきた。
大量の新品の赤パンツが家にやってきて
厄という厄が退いていくようだ。

というわけで
私は来る日も来る日も、
神聖でエネルギイに満ちた金赤色で
厄を除け丹田を温めるのである。

母には顔がそっくりな姉妹が四人いて皆元気である。
母の分まで長生きして欲しい。
姑も元気でありがたい。
これまた長生きして欲しい限りだ。

何時の頃からか私は母、姑、伯叔母達、妹、従姉妹達に
何かというと赤いパンツを贈っていた。
センスも趣味もへったくれも無くて皆一様に笑顔になり
喜んでくれて場も盛り上がる贈り物。
話題にもなる便利な赤パンツだと思っていた。

そんな赤パンツなので、
是非履いて効果を確認していただきたいものである。
どうか引き出しに溜め込まないでほしい。
親戚で遺品整理をする度に
新品の赤パンツを引き取るのは避けたい。
どうぞよろしくお願いします。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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