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其の四十八 編集部へ遊びに来てください

と、ページの縁に書いてあった。

私が子供の頃の、少女漫画雑誌のことである。
もう彼此何十年も前の話だから、今もそうなのかは知らない。
当時、少女であった私は寝ても覚めて漫画雑誌を読んでいた。
発売日には本屋に走って買いにいった。
発売日でない日は本屋に歩いて行って単行本を立ち読みしていた。
其の内、読むだけでは厭き足りなくなり、自分で描きたくなってきた。

最初の大きな問題は「紙の裏表に描いてよいのか?」であった。
子供なのでいくら考えてもわからない。
漫画雑誌の頁には表裏共に絵が描かれているじゃあないか。
紙に描く時もこのように、表に描いて次に裏に描くのだろうか。
わからない。
仕方ないので編集部に電話をして電話口に出てきた人に尋ねてみた。
一枚の紙の片面だけに描くのだと教えてもらって解決した。

手塚治虫の「マンガの描き方」という本に
「十年描き続けなさい。十年続けるとそれで食べていける」と書いてある。
本当にそんな謂い方だったか忘れてしまったが、
兎に角十年描き続けることが大事らしい。

而して描き上がると編集部へ持って行ったのである。
編集部の電話番号のところに「遊びに来てね」と書いてある。
来いと言うから行ったまで。
躊躇がない。
敷居を見ないのは此の頃からであると思う。

S学館の応接コーナーで編集部のSさんという人が会ってくれた
ツイードのザックリとしたジャケットを着たSさんは
髪の毛がもじゃもじゃで眼鏡をかけた小父さんである。
一作目の漫画を丁寧に読んで親切に話をしてくれた。
二作目も三作目も描き上がると突然訪ねて行ってSさんに見せた。
Sさんは何時も
「次に来るときは前もって電話をくれるといいよ」と教えてくれた。
電話をすると良いのだがしなくても良いのだと解釈していた。
子供は人の都合に気付かないので。
因みに隣のS英社にも行ったががっかりするような対応だった。

その後、手塚先生が言う十年継続の話は真実だと思った。
私は三年もすると違うことに夢中になっていたから。
ただ、私の中でS学館は憧れの出版社の儘である。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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