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其の八 擂鉢と擂粉木
白和えの豆腐、胡麻よごしの胡麻、
とろろ、茹で大豆、つくね、鰯。
食べ物をこまかくつぶしたりするのが擂鉢と擂粉木である。
一連の作業の安定を図るため、
子どもは両手でしっかりと擂鉢を押さえていなければならない。
布巾を敷いて擂鉢をのせ、その中に胡麻やら、味噌やら、豆やらを入れて
「ごおり、ごおり、ごおり」と擂るのである。
ところで「擂る」という字には「雷」が入っている。
「ごろごろ、ごりごり」と鳴る音からきているのではないだろうか。
両手でじっと擂鉢を押さえている子どもは、
どうしても、主人公の「擂粉木」に挑戦したくなる。
「じゃ、やってみな」
「こうして、こう、こっちの擂粉木の頭に右手をのせ、
支える左手は動いてはいけない」
右手で円を描くけれども、左手は動かず。
その先端の太い方が擂鉢の中で円を描く。
擂粉木の頭で描く円と、反対方向に描かれる円である。
「ごりごり…ごりり」
「ちがうっ。こうだってば」と祖母が舌打ちをする。
今、考えるに、力点、支点、作用点ではないか。
しかし、擂鉢に近いほうをぐるぐる回したくなるのが、子どもの人情であろう。
今だに、擂粉木には「このやろう」という思いがする。
音が柔らかくなめらかになってくると段々に出来上がりである。
砂糖や塩、醤油、味醂や、時に味噌で味つけし、
その中にホウレン草や小松菜を入れて菜箸であわせ、器に盛り付ける。
この、擂鉢の細かい溝に残った胡麻や味噌、
胡桃などは猛烈に気になるしろものであった。
しつこくしつこく、箸でせせってとり出し、舐めていた。 |
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