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第105稿
睨んで 睨む

 京都に有る花園大学へ自宅から通っていた。京阪三条から京都バスに乗り丸太町通り「木辻南」で降り北へ徒歩3分ほどの処。妙心寺に東側隣接し臨済宗宗門の学林として設立され、今日に到るまでの百年を超える歴史は古い。当時(40年前)の入学案内のキャッチフレーズは「世界で一番小さな大学」。8学年?併せ800人前後の学生数であったと記憶している。亦、認知度は低いが学園紛争を行った国内最後の大学でもある。移転により、バス停も一つ手前の「馬代町」になり丸太町通り南に少し下がった処に母校がある。

 梅雨には入りきらぬ時期であったと思う。大学の正門に向かう通りに立つ家の軒先が何故か燃えている。道行く学生も気が付かない、知らぬ事も出来ず玄関に立った。家主のおじさんは朝食の邪魔をされ、不機嫌に何の用かと言うので「軒が燃えている」と言うと「アーーーー」と、此奴は何を言うとるのか。外を指さし「軒が燃えている」と繰り返すと、外へ出て見るなり「火事やーーーーー」と家の中に飛んでいった。煙に気付いたのか、大学から大きな車輪つきの消化器を転がして来る職員とすれ違ったのを覚えている。

 翌日、家長さんは玄関に立ち道行く学生に眼をこらしていた。私を暫く睨んで居たが、次の学生に視線を変えた。その朝はオールバックで、翌日はツルツル。変装をしたわけでは無い。そのまま四十年が過ぎ、其の家長さんも鬼籍に入られたと思う。先日京都に所用の際。何を思ったかその家の前まで歩いて行ってみた。今では入り口扉も傾き閉まり、生活の匂いも無く家はそのまま残っている。立ち止まって居る私を、睨む人はいなかった。

住職 合掌

―第118稿―
「張暑飽閉」の「春夏秋冬」

―第117稿―
春のお便り

―第116稿―
「正月」と「障月」

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